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第151話 静かな別れ

Penulis: 花柳響
last update Tanggal publikasi: 2026-08-19 06:00:20

 なのに今聞くと、初めての言葉みたいに胸へ沈んだ。

 廊下の向こうでワゴンの車輪が鳴り、消毒液の匂いが病室の隙間へ薄く流れ込んできた。

「誰が何を言っても。血がどうでも。家の名前がどうでも」

 祖母の指が、私の手の中で少し動いた。

「誰かの代わりじゃない」

 祖母の手を包む指に、力が入った。

「……おばあさま」

「隆一には、負けなくていい」

 その名前だけが、酸素の音の中にはっきり残った。

 祖母は目を開けなかった。

「会社のため、家のため。あの子はずっと、そう言ってきた。でもね、栞」

 酸素の音が大きくなる。

「……人を使ってまで残すものじゃないよ。家なんて」

 扉の外で、何かが小さく動いた気配がした。

 田辺さんが振り返る。ガラス窓の向こうに、隆一の影が見えた。琴美もいる。いつ来たのか分からない。

 祖母の声が、もう一度細くなる。

「戻らなくていい」

 
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